日常生活状況報告書の準備|家庭・職場・学校
日常生活状況報告書は、高次脳機能障害の後遺障害等級認定手続において、被害者様の周囲の方々から見た症状を審査機関に報告する必要書類です。
高次脳機能障害の症状をとらえるうえでは、被害者様を取り巻く環境を踏まえて、事故の前と比べてどれだけ生活の支障が生じたかがポイントとなります。
被害者様の生活上の問題は、専門的知識を持つ医師よりも被害者様の周囲の皆さん、ご家族や職場、学校の教師が、より把握できるものです。
被害者様のどのようなところがどれだけ事故前と変わってしまったのか、具体的なエピソードをメモし続け、保険会社から送付されてきた重要書類などと一緒にまとめておきましょう。
このメモが日常生活状況報告書の下敷きとなります。
では、どのような点を記録していけばよいのでしょうか。
ここでは、高次脳機能障害の治療中で、これから後遺障害等級認定の申請を検討されている方に向けて、家庭や職場、学校それぞれにおける症状を日常生活状況報告書に適切に反映するためにどのような準備をしておけばよいのかを説明します。
このコラムの目次
1.日常生活状況報告書について
日常生活状況報告書では、既定の書式(「日常生活状況報告」)があります。
しかし、上の画像を見ればわかるように、選択式の解答欄が多く、自由記入欄が小さいので、被害者様の症状を審査機関にできる限り正確かつ具体的に把握してもらうためには、文章で被害者様の様子を伝える別紙の作成が大切になります(書式にもその旨の記載があります)。
では肝心の記載事項はどのようなことなのでしょうか。
どのような点に注意して被害者様の様子を記録していけばよいのでしょうか。
2.家庭の場合
(1) 被害者様の日常的な言動
事故後、被害者様の日々の言動はどうなりましたか?
最低限の日常生活を送るだけの記憶力や判断力があっても、段取りが悪い、計画性がなくなってしまっていれば、暮らしに大きな悪影響が生じます。
また、スマホを触ったりゲームをしたりすることは特に問題がなくても、前なら一日30分程度を3~4回だったのに、今では一日中見ている。これも問題です。
高次脳機能障害により、感情コントロールができにくくなるため、怒りやすくなり、口調が攻撃的、暴力的になることがとても多くなります。
怒る頻度や、怒ったときに事故前と事故後ではどんな言葉を使ったのかを書いてみましょう。
(2) ご家族への影響
上記のような被害者様自身の言動が、ご家族との関係でどのような問題を生じさせているのかも重要です。
高次脳機能障害の症状は、判断力などの低下が引き起こす日常生活への支障です。家庭環境など周囲の状況との関係全体で、症状をとらえる必要があります。
一日の生活の中で、食事や睡眠のリズムが大きく崩れてしまっていることでも、その原因や家族との関係を具体的に記載すれば充分です。
たとえば、先ほどのスマホやゲームについて、家族との団欒を無視してスマホやゲームに熱中してしまうといったことでも、症状として分かりやすいでしょう。
(3) 家族等の付添いや声掛け
審査機関が用意している書式では、家族の付添や声掛けが必要な事情があるか、その頻度や、声掛けなどをすると被害者様本人はどの程度対応が可能かということが記載されています。
これは、後遺障害等級の認定基準を高次脳機能障害向けにより分かりやすく説明した「補足的な意見」でも同様です。実際の認定はいろんな事情を総合評価しますので、実は、補足的な意見に記載されたとおりに認定されるとは限らないことには注意が必要です。
それでも、日常的な付添や声掛けについては、被害者様本人の判断力や行動力についてご家族などの助けがどれだけ必要なのかということを明らかにできる具体的な事情として、認定手続の中で重要視されています。
事故前は、よほど熱中していない限り、夕飯の時間には食卓に座っていた。なのに、今では「ご飯だからスマホのゲームは止めて食卓に来て」と3回は言わなければ来てくれない。
このように、声掛けなどが必要になったという事情は、被害者様の行動力や人格変化などを明らかにしやすいのです。
3.職場の場合
被害者様が職場復帰していたら、職場の上司や同僚に、被害者様に生じた問題行動・その時の具体的な状況・職場での配慮や援助を記録し続けてもらいましょう。
認定申請の際に、被害者様が働くうえでの支障を日常生活状況報告書としてまとめてもらうためです。
ご家族が作成した報告書と一緒に提出することになります。
(1) 問題行動とその時の状況など
仕事は高次脳機能をフル回転させる必要があります。障害の症状が明らかになることが多いでしょう。
- 仕事の処理の計画が立てられない、計画通りに仕事ができない。
- 取引先の名前を忘れる。
- 電話をしながらメモを取ることができない。
- すぐ疲れ、頻繁に休みながらでなければ仕事ができない。
上記のように、認知障害や行動障害は仕事に大きな悪影響を与えます。
とはいえ、どのような仕事をしているかは人それぞれです。
問題が生じたときの具体的な仕事の内容や解決すべきだった課題などを前提として、事故前と現在とで、具体的な問題が起きたエピソードを日々記録するよう、職場で被害者様と関わる皆さんにお願いしましょう。
さらに、労働能力は、単純に仕事を処理する能力だけというわけではありません。
仕事では職場や取引先との人間関係も大切です。
高次脳機能障害の症状である人格変化により、自分勝手で怒りっぽくなってしまうと、職場の人間関係にも問題が生じてしまうでしょう。
このようなことも、事故前と比べてどうなったのか、職場復帰後にどのような問題となる言動を「具体的に」記録し続けるようお願いしましょう。
(2) 職場での配慮や援助
一見、事故前と同様に働き続けているように見えても、職場の上司や同僚が被害者様の監督役となって、付きっきりで面倒を見ているのであれば、ご家族の付添や声掛けと同じように、症状が出ていることを示す事情になります。
監督役となっている方に、どのようなことについて指示や手助けをしないといけなくなったのか、メモし続けてもらえるようお願いしましょう。
4.学校の場合
被害者様が学校に通っている子どもであるとき、審査機関は担任の教師が作成する「学校生活の状況報告」という書類の提出を求めます。
自由記入の形式になっていますが、項目は「学習面」「日常行動等」などとあいまいなうえ、記入欄が小さすぎます。
こちらも別紙の添付が必要でしょう。こちらの書式でも、「記入欄に記入し切れなければ別の用紙に記入して添付してください」との注意書きがありますから問題ありません。
とはいえ、教師は大変忙しい職業です。何十人もの子供の様子を見なければいけません。特に幼い子どもの場合は、もともと高次脳機能が発展途上です。
また、症状固定したと言えるまでには、1~2年程度かかることもあります。その間に担任の教師が変わってしまうこともあるでしょう。
量・質ともに十分な報告書を、場合によっては事故前と症状固定時の二人の教師に作成してもらうためには、ご家族が早いうちから学校と連絡を取り合い、高次脳機能障害により引き起こされやすい症状の具体例(物忘れや自己中心性、怒りっぽいなど)を示して、事故前と現在とで比べやすい具体的なエピソードの記録をするようお願いしてください。
5.まとめ
人間が人間らしく自立して生きるための能力である高次脳機能に障害が起きると、被害者様や周囲の皆さんは大きな苦痛を受けることになります。
後遺障害等級認定を受けて後遺障害の損害賠償請求をすることが、適切な賠償請求には不可欠です。
しかし、高次脳機能障害の後遺障害等級認定は、一般的に難しいものとなっています。
交通事故直後、脳画像検査で異常がある、または意識障害があったあと、被害者様の様子がおかしければ、すぐにその具体的な状況を、日時などと共にメモしてください。ノートなどがあったほうがよいでしょう。
そのメモをもとに医師に高次脳機能障害ではないかと伝え、高精度MRIや知能テストなどを定期的に実施してもらいましょう。
退院後、家庭や職場、学校での被害者様の様子も、職場や学校などの関係者の皆さんに丁寧に説明し、定期的に報告を取り合って、症状を具体的に記録し続けることで、充実した内容の日常生活状況報告書を作成できるようになります。
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