交通事故によるむち打ち~慰謝料などの相場・後遺障害の認定~
むち打ちは交通事故の多くを占める追突事故が原因となりやすいため、交通事故による損害賠償でも特に問題となりやすい怪我です。
ところが、やっかいなことに、むち打ちには賠償請求しづらい特徴があります。
ここでは、交通事故によるむち打ちの損害賠償金について、
- むち打ちの特徴
- むち打ちの損害賠償請求をするうえでの注意点
- 後遺症の賠償に備えてすべきこと
などを分かりやすく説明します。
このコラムの目次
1.賠償請求しづらいむち打ちの特徴
むち打ちは、首がまるで鞭がしなるように不自然に動いてしまったために、神経などが損傷し、体の痛みやしびれ、頭痛やめまいなどを引き起こすものです。
損害賠償請求をするには、「交通事故が原因でむち打ちの症状が生じた」ことを証明しなければいけません。
しかし、その証明は、以下の通りむち打ちでは難しいのです。
まず、むち打ちの症状は被害者の方自身しか感じることができません。しびれ、頭痛やめまいなどの「自覚症状」があることの証明は、客観的な証拠が少ないために難しくなります。
また、むち打ちの原因は一般的に神経の損傷です。神経は骨などと異なり、画像検査で直接確認することができません。
神経の機能を調べる「神経学的検査」でも、神経が損傷しているか直接分かるものではありません。
2.むち打ちの賠償金はどうなる?
むち打ちは、上記のように症状や原因が証明しづらいために、賠償金の相場や計算方法で不利な面があります。
しかし、だからこそ、賠償金を少しでも多く手に入れられるよう事故後の対応に注意すべきなのです。
まず、賠償金の相場について説明したうえで、様々な賠償項目について簡単な解説とポイントを説明します。
(1) 賠償金の相場
交通事故の賠償金には、①自賠責基準、②任意保険会社基準、③弁護士基準の3つがあります。
①自賠責基準は、人の死傷による損害賠償金を最低限保証するための基準です。自賠責保険からの支払いはこの基準に基づいて決まります。
②任意保険会社基準は、それぞれの任意保険会社内部で作られている基準です。ほとんどの場合は、①自賠責基準よりわずかしか増えません。
③弁護士基準は他の基準よりもかなり高額になります。「裁判基準」とも呼ばれ、被害者の方から依頼を受けた弁護士が請求すると、加害者側の任意保険会社は、相場を③に近い金額まで上げることが多くなります。
とはいえ、必ずとは言い切れません。特に、むち打ちの場合は、賠償しづらいハードルを乗り越えられる事情や資料があるかが、相場を反映した賠償金を手に入れるために大切なポイントになります。
(2) 賠償金の種類
交通事故の賠償金は、①怪我についての賠償金、②後遺症についての賠償金に大きく分けられます。
①怪我についての賠償金は、怪我による症状が回復しなくなった「症状固定」のときまでの治療費などです。症状固定の時よりあとの治療費などはまず請求できません。
症状固定の時にまだ残っている症状が後遺症です。②後遺症の賠償金は、後遺症が、「後遺障害等級認定手続」で「後遺障害」に当たると認定されなければ、原則として損害賠償請求することができません。
【怪我の損害賠償金】
- 治療費
- 入通院慰謝料
- 休業損害
【後遺障害の損害賠償金】
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
3.むち打ちを後遺障害と認定してもらう方法
上記の後遺障害慰謝料や逸失利益などは、後遺障害等級認定を受けなければ請求できません。
後遺障害の賠償金が受け取れれば、数十万円から数百万円も賠償金が増えることになります。
最後に、むち打ちの後遺障害認定を受けられる可能性を少しでも高めるために気を付けるべきポイントの中でも、大切なものをご紹介しましょう。
(1) 事故後すぐに病院で診断・検査を受ける
事故に遭ったら2〜3日以内に通院し、むち打ちと診断してもらいましょう。
早くに診断を受けなければ、交通事故が原因の症状と認めてもらえず、損害賠償が全く請求できないおそれがあります。
一方で、むち打ちは、事故から数日経過して初めて症状を自覚することもあります。この場合、症状を自覚したらすぐに病院に駆け込んでください(診断書の作成のため、整形外科に通院する必要があります)。
整形外科では、できる限り早くに精密検査を受け、その後も定期的に検査を続けてください。早ければ早いほど検査結果に画像が写りやすくなりますし、定期的に検査をすれば症状の推移もわかります。
ただし、医学的な検査をあくまで治療のために行う医師は、認定の証拠としての検査はいらないと考えがちです。
しかし、交通事故賠償においては、客観的な画像などの資料は極めて重要だと覚えて、ご対応ください。
(2) 通院期間や頻度に注意する
少なくとも6か月、週に2〜3回は通院しなければ、後遺障害と認定してもらえません。
と言うのも、症状がさほど重くないとされてしまうからです。
保険会社が「もう治る時期でしょう」と治療費の支払いを打ち切っても、治療の必要があるなら通院を続けましょう。
(3) 医師に症状を丁寧に伝える
むち打ちでは、医師が被害者の方から聞き取ってカルテや診断書に記載した「自覚症状」が、認定を左右する大切な証拠になります。
医師に症状を伝えるときは、症状の内容や症状のあるところが一貫して同じであること・症状がほぼ常にあること・症状は事故直後が一番ひどく、その後緩やかに回復していることなどを丁寧に説明してください。
むち打ちには天候や体調など次第で症状に波があります。医師への伝え方を間違えると、医師は上記に反する記載をカルテや診断書にしてしまうおそれがあります。
(4) 後遺障害診断書をよく確認する
後遺障害診断書は、後遺障害等級認定で最も重要な資料です。
後遺障害診断書は被害者の方が直接医師に依頼し、また、受け取ることになりますから、そのときに後遺障害診断書の内容をよく確認することが大切です。
記載ミスはないか、認定に不利なニュアンスの記載がないかを確認し、必要に応じて医師に質問、あるいは修正の依頼をしましょう。
後遺障害等級認定手続に関する法律上の専門知識を事前に弁護士に助言してもらっていれば、後遺障害診断書の内容をよりよくできるはずです。
(5) 弁護士に被害者請求による申請を依頼する
むち打ちの後遺障害等級認定の申請は、被害者側で資料を集める「被害者請求」と言う方法を利用し、具体的な手続は弁護士に依頼しましょう。
認定が厳しいむち打ちは、加害者側の保険会社が資料を集める「事前申請」では、保険会社顧問医の意見書等、不利な証拠を入れて提出されるリスクがあります。
専門家である弁護士に依頼して、診断書や検査結果などを丁寧に集めてもらいましょう。
被害者の方自身ですることもできるとはいえ、書類集めの負担は重く、専門的な知識がなければ適切な資料を集めることは大変です。
[参考記事]
後遺障害の認定の申請方法(事前認定と被害者請求)
4.交通事故でむち打ちになったら弁護士にご相談ください
むち打ちは、治療も賠償請求も難しいものです。
痛みやしびれが苦しくても医師に理解してもらいにくいだけでなく、任意保険会社も、症状や原因が曖昧なむち打ちの特徴から、のらりくらりと賠償金を減らそうとしてきます。
一般の方が「たかがむち打ち」とあなどってしまうと、十分な賠償を受けられずに終わってしまうおそれもあります。
まずは、弁護士に相談して見通しを立ててもらいましょう。
弁護士に依頼すれば必ず後遺障害等級認定を受けられるとは保証できません。それでも、より認定されやすくなることが多いでしょう。
泉総合法律事務所では、これまで多くの交通事故によるむち打ちに悩まされている方を助けてきた豊富な実績がございます。皆様のご来訪をお待ちしております。
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