交通事故後のむち打ちで保険会社に治療費の支払いを打ち切られたら?
「交通事故に遭って、むち打ちになってしまった」
「医療機関での治療を続けているものの、一向に事故に遭う前の状態に戻らない」
「事故から3か月経ったころ、加害者が加入する任意の自動車保険の保険会社の担当者から連絡があり、「今月一杯で治療費の支払いを打ち切ります」と言われてしまった場合、治療を止めなければならないの?」
交通事故の被害者の方の中には、このような不安を抱えている方も多いでしょう。
しかし、実際には治療をやめる必要はありません。
今回は、交通事故でむち打ちになってしまい、保険会社に治療の打ち切りを通告された場合、どのように対処したらよいかについて弁護士が解説していきます。
このコラムの目次
1.治療費の支払いの打ち切りとは
まず、保険会社の担当者からなされた「今月一杯で治療費の支払いを打ち切ります」という発言はどういう意味なのかを解説します。
(1) 自動車保険の仕組み
保険会社からの治療費の打ち切り発言について説明する前に、自動車保険の仕組みを簡単に説明します。
自動車保険を大別すると、「自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)」と「任意保険」の2種類があります。
自賠責保険とは、「自動車損害賠償保障法」という法律によってすべての自動車に加入が義務付けられている保険で、「強制保険」とも呼ばれています。
自賠責保険は、交通事故の被害者に対する最低限の救済をおもな目的とする保険のため、補償範囲は限定的です。事故の相手方の人身損害しか補償の対象となりませんし、自賠責保険から支払われる金額も法律で決められており、被害者が被った損害全てを賄うことはできません。
このように、自賠責保険ではカバーしきれない損害を補償するための保険が、任意保険と呼ばれるものです。
(2) 任意保険の保険会社による一括払制度
被害者は、加害者の加入する自賠責保険に対して自分自身で支払いを求めることができます。
もっとも、被害者自身が手続をとることは簡単ではありません。
そのため、実際には、加害者が任意保険に加入している場合、任意保険の保険会社が、被害者に対し、一括して賠償金に相当する額を支払い、自賠責保険で本来支払うべきであった金額を自賠責保険に請求するという方法をとることが多くなっています。
このような加害者が加入する任意保険の保険会社の対応は「一括払制度」と呼ばれています。
そのため、一般的には、任意保険の保険会社の担当者が窓口となって、被害者とやりとりをします。
(3) 任意保険会社による治療費打ち切りの意味
任意保険の保険会社としては、できる限り治療費を抑えて、保険金の支出も抑えたいという意向があるので、これを抑えるために「今月一杯で治療費の支払を打ち切ります」といった連絡をしてきます。
さらに言えば、自賠責保険は、傷害による損害(治療関係費等、休業損害、慰謝料)の上限を120万円としています。任意保険は、自賠責保険で賄われなかった損害を補償する保険ですから、賠償金額が120万円以内に抑えられれば、保険会社は、自社からの支払いを避けることができます。
そこで、任意保険の保険会社は、被害者のけがが重篤でない場合は特に、120万円以内に抑えるため、治療費の支払いの打ち切りを告げてくるのです。
被害者のけがが骨折の場合、治ったか治っていないか外部から判断しやすいですが、むち打ちの場合、医師でも外部から判断するのが難しいので、適当なところで治ったことを前提に「治療費の支払いを打ち切ります」と言われてしまうことが多くなっています。
2.治療費支払いの打ち切りを告げられた際の注意点
では、痛みが残っているにもかかわらず、任意保険の保険会社から、治療費の支払いの打ち切りを告げられたときはどうしたらよいでしょうか。
まずは、医師に相談しましょう。なぜなら、治療の必要性を決めるのはあくまで専門家である医師だからです。
そのうえで、医師が「もう少し治療を続ければ良くなる」と言ってくれるのであれば、その旨を任意保険の保険会社に伝え、治療を継続したいという意思を示してください。場合によっては、「ではもう1か月様子を見ます」と言ってくれることもあります。
他方で、それでも治療費の支払いを打ち切るということであれば、自分の健康保険で通院を続けてください。医療機関の窓口で「今後は健康保険を使います」と伝えるだけで大丈夫です。
痛みが残っているにもかかわらず、治療費の支払いの打ち切りを告げられて、通院を止めてしまうことは避けましょう。
交通事故との因果関係が認められる限り、支払いが打ち切られた後の治療費も後々保険会社に請求することができます。
3.後遺障害の認定を受けるには?
(1) 症状固定と後遺障害
それでは、痛みが残っているにもかかわらず、医師から「これ以上治療を続けても良くならない」と言われてしまったときはどうしらたよいでしょうか。
このような状態を「症状固定」といい、症状固定となったら後遺障害の認定を受ける必要があります。
「後遺障害」とは、交通事故による受傷が、将来においても回復の見込めない状態となり、交通事故と残存した傷害との間に相当因果関係が認められ、その存在が医学的に認められるもので、労働能力の喪失を伴うものをいうとされています。
後遺障害があることは、「自賠責損害調査事務所」というところが認定をしてくれます。
(2) 後遺障害認定の申請方法
事前認定or被害者請求どっちが有利か?
自賠責損害調査事務所によって後遺障害の認定を受けるには、2つの申請方法があります。
①事前認定
加害者が加入する任意保険の保険会社が一括払制度で対応してくれているのであれば、任意保険会社を通じて申請をする事前認定という方法をとることができます。
事前認定は、保険会社が手続をとってくれるので、手間がかからないことが最大のメリットです。
他方で、被害者に後遺障害があることが認定されるということは、加害者の加入する任意保険の保険会社の支払金額が大きくなるということですから、支払金額をできるだけ抑えたい保険会社としては、自賠責損害調査事務所に対し、被害者の後遺障害認定に有利な情報を十分に伝えないことがあると言われています。
②被害者請求
加害者が任意保険に加入していない場合はもちろん、加入していたとしても、被害者が直接、自賠責保険の保険会社に対して後遺障害の認定を申請する被害者請求という方法もあります。
納得できる等級認定を得るためには、被害者請求を選択すべきです。
もっとも、被害者請求を選択する場合、被害者自ら複数の必要書類を集めなければなりません。必要書類には、通院した医療機関の診療録等、被害者自ら収集することが難しい書類も多数あります。
そこで、後遺障害の等級認定を申請する際は、弁護士に依頼するのがよいでしょう。
4.むち打ちを負った場合に支払われる慰謝料は?
後遺障害の認定を受けることができれば、いよいよ、賠償金額の算定です。
むち打ちを負った場合の慰謝料としては以下の2つがあります。
- 通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
(1) 通院慰謝料
通院慰謝料とは、事故によってけがを負い、通院を余儀なくされたことについての慰謝料です。
通院慰謝料は、医療機関に通院した期間に応じ、①自賠責保険基準、②任意保険会社基準、③裁判所基準のいずれかによって算定されるのが通常です。
むち打ちの場合、軽いものから重いものまで様々で、一般的な通院期間というのが難しいのですが、6か月が一つの目安とされていると言われます。
ただ、任意保険の保険会社としては、支出する費用を抑えるため、事故から3か月程度で治ったとして治療費の支払いの打ち切りを申し入れてくることもあります。
そして、任意保険の保険会社が治療費の支払いを打ち切った場合、被害者が健康保険で通院していたことは無視して通院慰謝料金額の提案をしてくることが多いです。
健康保険で通院していた部分について、治療費や慰謝料を請求するのであれば、弁護士に委任しての交渉が不可欠となるでしょう。
では、通院期間が6か月の場合、それぞれの基準によって計算した場合の慰謝料はどうなるでしょうか。
①自賠責保険基準
実通院日数を2倍した日数か、通院期間のどちらか少ない方に「4200円」をかけるものです。したがって、6か月通院し、実通院日数が60日の場合、通院期間(180日)より、実通院日数を2倍した日数(120日)の方が少ないので、以下の計算式となります。
(計算式)120日×4200円=50万4000円
②任意保険会社基準
これは任意保険会社独自のものであるため、どのような計算式か不明とされています。
一般的に、①自賠責保険基準で算出した金額よりは多く、③裁判基準で算出した金額よりは少ないとされています。
③裁判基準
通院期間が3か月の場合53万円、6か月の場合89万円とされています。
通常、任意保険会社は、弁護士に依頼されていない方に対し、①又は②の基準で算出した金額を提示してきます。しかし、被害者が弁護士に依頼すれば、弁護士は③で算出した金額を請求し、保険会社もこれに同意します。
したがって、通院慰謝料を増額するには弁護士に依頼することが必要不可欠なのです。
(2) 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、後遺障害が認められた場合に支払われる慰謝料です。
後遺障害には、重さに応じて1級から14級があるのですが、むち打ちは一番軽度とされる14級と認定されることが多くなっています。
14級の後遺障害が認定された場合、後遺障害慰謝料についても自賠責基準と裁判所基準があり、前者は32万円であるのに対し、後者は110万円です。
もっとも、自賠責損害調査事務所に対し、後遺障害の認定をしてもらい、14級と認定された場合、後遺障害逸失利益と合わせて75万円が支払われます。
それでも、裁判所基準によって算定された慰謝料(後遺障害慰謝料だけで110万円)の方が高額なことは明らかです。
任意保険の保険会社は、被害者から請求しない限り75万円以上支払ってきませんので、ここでも弁護士に依頼して裁判所基準に基づいて請求してもらうことが必要不可欠です。
5.治療費を打ち切られたら弁護士に相談を
以上、交通事故でむち打ちになってしまった際の保険会社からの治療費打ち切りとその対策と、むち打ちの慰謝料に関して解説しました。
交通事故でむち打ちとなってしまった際には、まだ通院中にもかかわらず保険会社から治療費の打ち切りを通告されることがほとんどです。言われるがまま通院を止めてしまうと、後々の慰謝料請求で正当な額を請求することができなくなってしまいます。
正当な金額の慰謝料を受け取るためにも、治療費を打ち切られてしまった後も通院を続け、保険会社との交渉は弁護士に一任しましょう。
弁護士が交渉を行うことで、最も高額な算定方法である裁判所基準での慰謝料請求が可能です。
交通事故案件でお悩みの方は、是非一度泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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