交通事故の加害者に謝罪させたい!最大限の責任を問う際に被害者ができること
交通事故の被害者の方の中には「加害者に誠意が見られない!」、「加害者に謝罪をしてもらいたい!」というお気持ちを訴えられる方がいらっしゃいます。
また、「加害者と連絡がとれなくなってしまった!」ということも起こり得ます。
被害者は、このような不誠実な加害者について、どのように対処したらよいのでしょうか?この記事では、その対処法についてご説明します。
このコラムの目次
1.加害者に謝罪をしてもらうことは可能か
そもそも、加害者に謝罪してもらうことは現実的に可能なのでしょうか?
(1) 交通事故の加害者が負う法的責任
前提として、交通事故の加害者が負う法的責任は、民事責任、刑事責任、行政責任の3つがあることについて解説していきます。
①民事責任
民事責任とは、民法上の不法行為責任を意味します。
不法行為とは、行為者が故意または過失によって被害者の権利または法律上保護される利益を侵害することをいい、民法は、行為者に対し、侵害によって被害者に発生した損害を賠償する責任を負わせています。
交通事故の場合、人をけがさせてしまったことに対する治療費や慰謝料等の人身損害、自動車等の物を壊してしまったことによる修理費等の物的損害が考えられます。
②刑事責任
刑事責任とは、法律を犯した者に対し、国により懲罰などの罰が与えられる責任のことです。
交通事故を起こして人をけがさせてしまった場合、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」を犯したこととなり、過失運転致傷罪が成立し、場合によっては、刑罰を受けることになります。
③行政責任
行政責任とは、一定の行政法規への違反によって生じる行政法上の負担をいいます。
交通事故を起こして人をけがさせてしまった場合、行政法規である道路交通法に違反したこととなり、違反の程度に応じて点数が加算され、規定の点数までいくと、運転免許停止、運転免許取消等の行政処分を受けます。
このように、交通事故の加害者は3つの法律上の責任を負うことになるのですが、逆に言うと、これ以外の責任は負いません。つまり、加害者は、被害者に対し、謝罪をする責任を負っていないのです。したがって、加害者自らが被害者に対する謝罪を望まない限り、被害者が加害者に謝罪を強制することはできないのです。
もっとも、加害者と被害者との間で示談書を取り交わす際や、裁判で和解する際、示談書ないし和解書に、いわゆる謝罪文言を入れることもあります。
謝罪文言というのは、例えば「被告は、自らの軽率な行動により、原告を深く傷つけ、多大な損害を生じさせたことを深く反省し、原告に対して謝罪する。」といったものです。
しかし、このような文言も、加害者が同意しなければ入れることはできないですし、そもそも、被害者としては、加害者からの直接の謝罪がなければ満足できないでしょうから、それほど意味があるとは言えません。
謝罪をしてもらうことが難しい場合に最も適切な方法は、以下でご説明するとおり、加害者が負う法的責任を最大化させることだと考えられます。
では、「加害者が負う法的責任を最大化させる」とはどういうことなのでしょうか?
(2) 加害者が負う法的責任を問う
①民事責任
加害者が任意の自動車保険に加入している場合、加害者が負うべき損害賠償金は、保険会社が保険金として支払うので、加害者に金銭的な負担はないと言わざるを得ません。
(なお、加害者が保険会社から保険金の支払を受けると、自動車保険の等級が下がり、次の契約更新の際、保険料が上がるということはあります。)
しかしながら、被害者が受け取ることができる損害賠償金が増えれば、少しは不満が和らぐのではないでしょうか。
そこで、通院期間を十分にとること(交通事故の慰謝料は、原則として通院期間によって算出されます)、また、弁護士に依頼すること(弁護士が示談交渉する場合、裁判で用いられている最も高額な裁判(弁護士)基準を用いて算出します)などにより、被害者が受け取ることができる損害賠償金を増やすことに努めましょう。
・不誠実な態度に対して慰謝料を請求できるか
ところで、加害者が不誠実な態度をとったことについて、慰謝料の支払いを求められないのでしょうか?
過去の裁判例を見ると、加害者に故意もしくは重大な落ち度(例えば、無免許運転、ひき逃げ、酒酔い運転、著しいスピード違反など)があった場合には、慰謝料の増額が認められることがあります。他方で、加害者の著しく不誠実な態度について慰謝料の増額を認めた裁判例もないことはないのですが、例外的な事例であると評価されています。
ただ、加害者に故意もしくは重大な落ち度があったとしても、被害者が慰謝料の増額を求めなければ、加害者側から提示してくることはないですし、金額については、ケースバイケースなので、請求を考えている場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
②刑事責任
被害者がけがを負っていない、いわゆる物損事故の場合、基本的に加害者が刑事責任を問われることはありません。
他方で、人身事故であっても、交通事故発生直後に現場に臨場した警察官は、事故当事者が事故現場に留まっていて事情を聞くことができ、目に見えて大きなけがを負っているような状況がなければ、「物損事故」として処理をすることが一般的です。
そこで、被害者としては、医療機関の受診後、医師に作成してもらった診断書を警察署に持参し、「物損事故」から「人身事故」に切り替えるようにしましょう。
人身事故に切り替えると、警察が実況見分、取調べなどの捜査をし、一通り捜査を終了した段階で、検察庁に事件を送致します。検察庁は、警察の捜査で足りない部分について補充捜査を行い、起訴・不起訴の処分を決定します。
警察ないし検察庁による捜査では、被害者からの事情聴取が行われることもあります。このとき、加害者との示談の状況や、加害者に対する処罰感情も聴取され、検察官が起訴・不起訴の処分を決定する際に参考にされるので、加害者の不誠実な対応についてきちんと説明するようにしましょう。
なお、被害者のけがが軽微な場合には、加害者の取調べ、被害者からの事情聴取等は行われず、不起訴処分の決定がなされてしまうことが一般的であり、残念ながら、加害者の不誠実な対応について説明する機会を得られないかもしれません。
③行政責任
行政責任は、法律によって形式的に負うこととなり、残念ながら、示談交渉における加害者の態度や被害者の処罰感情などは考慮されません。
2.加害者と連絡が取れなくなった場合
これまでは、加害者が不誠実とはいえども、被害者は、加害者ないし加害者の加入する任意保険の保険会社との間で連絡をとることはでき、損害賠償金の支払いも受けることができる場合についてご説明してきました。
では、加害者と一切連絡が取れない場合はどうしたらよいのでしょうか?
この場合、被害者は、加害者の加入する自賠責保険の保険会社及び任意の自動車保険の保険会社に対し、直接、損害の賠償を請求することが考えられます。
詳しく見ていきましょう。
(1) 自賠責保険の保険会社への直接請求
自賠責保険は、被害者救済を目的とした強制保険であるので、被害者は、加害者の加入する自賠責保険の保険会社に対して損害の賠償を請求することができるとされています(自動車損害賠償保障法16条)。
加害者が加入する自賠責保険の保険会社は、交通事故が発生し、警察に報告すると、各都道府県の交通安全運転センターから発行されるようになる「交通事故証明書」で確認することができます。
もっとも、被害者自ら加害者の加入する自賠責保険の保険会社に対して損害の賠償を請求する手続は煩雑なので、弁護士に依頼することをお勧めします。
(2) 任意の自動車保険の保険会社への直接請求
けがが重篤な場合、被害者の負った損害が自賠責保険の保険会社から支払われるものでは担保されないことがあります。そのような場合、自賠責保険の上乗せといわれている任意の自動車保険の保険会社から支払いを受けることはできないのでしょうか。
任意の自動車保険の場合、約款(契約者と保険会社の間で締結する保険契約に関する内容が記載された文書)に以下のような規定があることが一般的で、このような規定があれば、被害者は、任意の自動車保険の保険会社に対して直接請求をすることが可能です。
(1) 対人事故によって加害者に法律上の損害賠償責任が発生した場合、被害者は、任意保険会社が支払責任を負う限度において、任意保険会社に対して損害賠償額の支払を請求することができる。
(2) 任意保険会社は、次のいずれかに該当する場合に、被害者に対して損害賠償額を支払う。
① 損害賠償額について、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合。
② 加害者が負担する損害賠償額について、加害者・被害者間で書面による合意が成立した場合。
③ 被害者が、加害者に損害賠償請求しないことを加害者に対して書面で承諾した場合。
④ 損害賠償額が対人保険金額を超えることが明らかになった場合。
加害者と連絡が取れない場合、上記②や③は現実的ではないので、①を選択することになるでしょう。
もっとも、直ちに裁判を起こさなければならないというわけではありません。加害者の加入する任意保険の保険会社が分かるのであれば、そこに連絡をして事情を説明し、保険会社から、加害者に連絡をとってもらうことで、裁判をやることなく、損害賠償金の支払いを受けられる可能性があります。他方で、加害者がなおも不誠実な対応をするようであれば、加害者を被告として裁判を起こさざるを得ないでしょう。
(3) 加害者の任意保険の保険会社が分からないとき
通常、交通事故の現場で、加害者の氏名、連絡先に加えて、加入している任意保険の保険会社も教えてもらうと思います。
ところが、極めて不誠実な加害者であれば、任意保険の保険会社を教えないということもあり得ます。被害者が、加害者の加入する任意保険の保険会社すら分からない場合、直接請求をすることができません。
もっとも、弁護士であれば、加害者の加入する任意保険の保険会社を調べることが可能です。
いずれにせよ、加害者と連絡が取れなくなってしまった時点で、被害者の手に負えない事態となっていると言わざるを得ませんので、早急に弁護士に相談するのがよいでしょう。
3.交通事故のお悩みは泉総合法律事務所へ
以上ご説明したとおり、加害者が自ら謝罪を望むようなことがなければ、加害者に謝罪を強制することは困難です。また、被害者としても、強制して得られた謝罪ではあまり意味がないでしょう。
これは、交通事故に限らず、被害者がいるどの犯罪でも言われていることです。
そのため、加害者からの謝罪に固執することなく、特に、得られる損害賠償金を最大化し、新しいスタートを切るということが精神衛生上もよいでしょう。
また、加害者と連絡が取れなくなってしまった場合、既に被害者の手に負えない事態となってしまっていると言わざるを得ませんので、早急に弁護士にご相談されることをお勧めします。
交通事故のお悩みは、泉総合法律事務所の弁護士にぜひご相談ください。
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