交通事故の相手方が治療費を支払ってくれない!
交通事故の被害に遭った人の中には、「治療費の支払い」に不安を抱えている人も少なくないようです。
たしかに、病院に長期間通院すれば多額の医療費がかかってしまいます。また、交通事故の治療費は、健康保険を使わない場合も多く、1回あたりの支払い額も数万円となることも珍しくありません。
しかし、治療費を支払えないからといって、通院を疎かにしてしまうことは、被害者にとって何一つ良いことはありません。
交通事故によるケガの場合には、「軽いケガ」と思っていたものでも、後遺障害が残ってしまうことも珍しくありません。
これから解説するように、治療費の立て替え払いが難しい場合や、相手方の保険会社から治療費の支払いを拒否されたときにも、治療費を工面する方法が複数用意されています。
ケガの治療は被害者にとっても最も重要なものです。治療費の負担に不安があるときには、早めに弁護士にご相談ください。
このコラムの目次
1.交通事故でケガをした場合の治療費について
交通事故でケガをしたときの治療費は、「損害賠償」として相手方(の保険会社)に請求することができます。
しかし、損害賠償を請求するためには、相手方との示談交渉や民事訴訟などを経る必要があります。そのため、交通事故の被害者の方には、示談や訴訟が終わる前の治療費の支払いは「誰が負担するのかわからない」という不安を持っている方が少なくないようです。
(1) 交通事故のケガの治療費負担の原則
交通事故によるケガの治療費は、損害賠償額の確定までの間「被害者が立て替える」のが原則です。
治療に関する契約は、あくまでも患者である被害者と治療を行う医療機関との間のものなので、病院に対する治療費の支払い義務はあくまでも患者(被害者)にあるからです。
したがって、まずは被害者が治療費を立て替えて医療機関に支払い、その額を損害賠償として加害者に請求するという順になるのが原則的な考え方です。
しかし、交通事故によるケガの治療では、健康保険を使わない場合や長期の治療となることも少なくないため、被害者による立て替え払いは負担が重くなりすぎることもあります。
(2) 治療費を相手方の保険会社に請求する方法
治療費の立て替え払いの負担が重すぎるときには、相手方の保険会社や自賠責保険会社に、「治療費の随時支払い(先渡し)」をお願い(請求)することができます。
①相手方の任意保険会社に治療費の支払いをお願いする
交通事故の損害賠償請求は、相手方の自賠責保険・任意保険の両方に対して行うことができます。
しかし、実際には、相手方が任意保険に加入していれば、損害賠償請求(示談交渉)の窓口は、任意保険会社に一本化されます。
自賠責保険による支払い分は任意保険会社が肩代わりして払い、任意保険会社から自賠責保険へ請求することになっているからです。
通常のケースでは、被害者にとっても請求の窓口が1本化された方が便利な場合が多いでしょう。これを「一括払い」とか「一括対応」と呼んでいます。
しかし、一括払いの場合には、通常は示談がまとまってからでなければ、損害賠償(治療費)の支払いは行われません。
また、交通事故の示談交渉は、ケガの治療が終わってから行われるのが一般的です。
治療が終わらなければ(症状固定にならなければ)、損害額(治療費の総額や今後の慰謝料額)が確定しないためです。
交通事故のケガの治療費を被害者が立て替えるのはこのことが理由です。
一括払いの場合であっても、相手方の保険会社に依頼することで、治療費の支払いを示談成立前に行ってくれる場合があります。
しかし、一括払いのときの治療費の先払いはあくまでも任意保険会社のサービスに過ぎません。
特に次のような場合には、示談成立前の治療費の支払いを拒否される可能性があるので注意が必要です。
- 交通事故における被害者の過失割合が大きいとき
- 交通事故の過失割合について、被害者と保険会社との間で認識が異なるとき
- 交通事故の加害者も治療を受けているとき
- 交通事故前からの既往症についての治療費
- 必要のない通院・治療の費用
- 必要が認められない著しく高額な治療費
②自賠責保険への被害者請求(仮渡金制度の利用)
任意保険会社が一括払いによる治療費の支払い(示談成立前の先払い)に応じてくれないときには、一括払いを解除し、自賠責保険に治療費の支払いを請求します。これを「被害者請求」といいます(自賠責法16条)。
自賠責保険への被害者請求は、下記の書類を自賠責保険会社に送付して行います。
専用の書式が必要なものもあるので、まずは相手方の自賠責保険会社に問い合わせすると良いでしょう。
- 支払請求書
- 交通事故証明書(事故現場を管轄する交通事故安全センターで交付してもらえる)
- 事故発生状況報告書
- 診断書
- 診療報酬明細書
自賠責保険に被害者請求したときには、「仮渡金制度」を利用することができます。「仮渡金制度」を利用すれば、治療中で損害賠償額が確定する前であっても、一定額の範囲内で「損害賠償の先払い」を受けることができます。
仮渡金の限度額は次のとおりです。
限度額(被害者1人あたり) |
症状など |
---|---|
40万円 |
|
20万円 |
|
5万円 |
|
なお、実際にかかった治療費が仮渡金で受け取った金額よりも少ないときには、自賠責保険会社に返金する必要があります。
2.ケガの治療費でトラブルが生じたときの対処法
交通事故の示談交渉では、治療費について相手方の保険会社とトラブルになることも少なくありません。
また、相手方が任意保険に加入していないときには、自賠責保険だけでは治療費を賄いきれない場合もあり得ます(傷害事故の場合の自賠責保険の限度額は120万円です)。
(1) 治療費支払いの打ち切りを伝えられたら
交通事故の被害者からの相談には「治療の途中で相手方の保険会社から『治療費の支払い打ち切り』を伝えられた」というものが少なくありません。
相手方の保険会社が治療中であるにもかかわらず治療費の打ち切りを伝えてくる理由としては、次のようなことが考えられます。
- ケガの症状ごとの相場とされる治療期間を過ぎた場合
- 通院回数・頻度が少ないために軽傷と判断した場合
- 早期に示談を成立させることで損害賠償額を減らしたい場合
- 加害者の刑事責任を軽くするために早期の示談成立が必要な場合
しかし、ケガの治療が終わったかどうかを判断するのは保険会社ではありません。
同じ傷病名であったとしても、症状の程度に違いがあることは珍しいことでもありません。症状治癒の程度はその被害者によって異なるからです。
医師が治療終了と判断する前に治療をやめてしまうことは、被害者自身の今後のためにもなりません。
特に、後遺障害が残る可能性がある場合には、医師が「症状固定」(治療によってこれ以上症状が良くならない状態)と判断するまで、必ず治療を継続しましょう。
必要な治療を受けなかったことで、本来は残るはずのない後遺症が残ってしまうこともあり得ます。
治療が十分でないことを原因に後遺障害が残ったときには、相手方に対して後遺障害慰謝料を請求できない可能性もあります。
保険会社が治療費の打ち切りを通告してきても、交通事故と相当因果関係のある適切な治療にかかった費用は損害賠償として後日請求することができます。
治療費の立て替えが難しいときには、すでに説明したように自賠責保険への請求を先行する方法などでも対応できます。
しかし、治療途中での治療費打ち切りを通知されたときには、その後の示談交渉も難航することが珍しくありません。ご不安なことがあるときには、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
(2) 自賠責保険で対応しきれないときの対処法
任意保険会社が治療費の支払いを拒否した場合であっても、自賠責保険へ被害者請求を行えば、治療費を立て替えることなく治療を続けることができます。
しかし、傷害事故の場合の自賠責保険は120万円なので、治療が長期にわたった場合には、限度額を超えてしまう可能性もあります。
また、交通事故の相手方が任意保険に加入していない場合もないわけではありません。損害保険料率算出機構が毎年発刊している「自動車保険の概況」によれば、任意保険の加入率は、約75%(全車両・対人賠償保険加入率・2017年度)です。
東京などの都市部では8割以上の加入率ですが、沖縄などのように5割強しか加入していない地域もあります。
①自分の健康保険を利用して負担額を抑える
相手方の保険(自賠責・任意保険)によって治療費が支払われないときには、「自分の健康保険」を利用して治療費を支払うことができます。
「自分に過失のない事故によるケガの治療には健康保険を使えない」と勘違いしている人も少なくないようなので注意が必要です。
健康保険を利用したときには、3割は自己負担として支払う(立て替え払いする)必要があります。自己負担分は、交通事故の損害賠償として相当な範囲であれば、後日相手方に請求することができます。
ただし、相手方保険会社から「治療費の早期打ち切り」を伝えられているときには、被害者自身による示談交渉では支払いに応じてもらえない場合が多いでしょう。
公平な補償を受けるためには、早期に弁護士に依頼し、訴訟提起も視野に入れた示談交渉を行うことが大切です。
②勤務中・通勤中の交通事故なら労災保険も使える
勤務中・通勤中の交通事故によってケガをした場合には、「労災保険」を利用することができます。
勤務先が労災保険に未加入、保険料の滞納をしている場合でも「事故後適用」と申し立てれば、労災保険を受け取ることができます。
労災保険の申請についても、不安な点があるときには、弁護士に相談すると良いでしょう。
就業中・通勤中の交通事故でケガをした場合に、労災保険を適用すれば、次の給付金を受け取ることができます。
- 療養補償給付
- 休業補償給付
- 傷病補償給付
- 障害補償給付
- 介護補償給付
なお、労災保険を利用するときには、「労災指定医療機関」で治療を受けることが大切です。
労災非指定医療機関で治療を受けた場合でも保険金の給付を受け取ることはできますが、この場合には、被害者が治療費の全額をまずは立て替える必要が生じてしまうからです。
ところで、労災保険の利用を申請すると労働基準監督署で「自賠責保険への請求を先行するように」と指摘されることがあります。
このような指摘は国の事務取扱通達に基づくもので、「二重払い」を回避するために行われます。
しかし、制度の建前としては、自賠責保険と労災保険のいずれを先行して使うかは、被害者が自由に決められます。
実際にも、被害者にも一定の過失割合があるときには労災保険の適用を先行した方が有利な場面があります。
「労災と自賠責保険のいずれを先行すべきかわからない」というときにも、弁護士に相談するとよいでしょう。
③自分の自動車保険(人身傷害保険)を利用する
被害者自身が「人身傷害保険」に入っているときには、ケガの治療費を自分の自動車保険から賄うことができます。
人身傷害保険は、「ノーカウント(ノンフリート)事故」扱いとなるため、利用しても翌年の保険料は増えません。
ただし、人身傷害保険は、対人賠償保険に比べて加入率は低いです。心配な方は自分の保険の加入状況をあらかじめ確認しておくと良いでしょう。
④相手が自賠責保険にも加入していないとき
あまり考えたくないことですが、交通事故の相手が自賠責保険(強制保険)にも加入していない場合もないわけではありません。
特に二輪車が相手の事故の場合には少し注意が必要です(自動車に比べて二輪車は強制保険に加入していない割合が高いです)。
この場合には、国の補償事業によって最低限の補償を受けることができます。
なお、人身傷害保険に加入していると「無保険者傷害保険」が必ず付帯されています。しかし、この無保険者傷害保険は、「後遺障害に対する補償」と「死亡事故の補償」にしか使えないので注意が必要です。
⑤自分で負担した治療費は「医療費控除」の対象となる
自分で治療費を負担した場合には、確定申告によって「医療費控除」を受けることができます。
なお、医療費控除は、自分の治療費だけでなく「同一生計の配偶者その他親族の治療費を支払った場合」にも対象となります。
ただし、立て替えた治療費を後日損害賠償で補填してもらえた場合には、その分は医療費控除とはなりません。また、医療費控除は上限額が200万円であることにも注意が必要です。
3.交通事故の示談交渉なら泉総合法律事務所へ
交通事故でケガをした場合には、「高額な治療費の立て替え」に不安を感じる被害者は少なくありません。
また、交通事故の示談交渉の相手となる保険会社は、あくまでも相手方の代理人なので、治療費の負担をめぐって交渉が難航することも珍しくありません。保険会社としては支払い額を少しでも減らすことが会社の利益となるからです。
しかし、治療費の負担を気にして「必要な治療を受けられない」のでは本末転倒です。適切な治療を受けないことで損をするのは被害者です。
治療が十分でないことが原因で後遺障害が残れば、患部の痛み・しびれ・倦怠感・可動制限による不便な暮らしを長期間強いられるばかりでなく、それに対する補償も受けられない可能性があります。
交通事故でケガをした場合には、合理的な範囲内の治療費は全額相手方に請求することができます(ただし、過失割合に応じて減額されることには注意が必要です)。
交通事故の治療費についてわからないこと、不安なこと、困ったことが生じた時には、ご自身の今後の生活のためにも、早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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