交通事故直後から訴訟まで、弁護士に相談・依頼すべきタイミングは?

交通事故の被害者となってしまった場合、賠償金をめぐる問題は、加害者が加入している保険会社から損害賠償金の支払いを受けて最終的な解決となります。
事故発生から最終解決までは、ケガの程度によって、数ヶ月から数年もの長い期間がかかるものです。その期間中、賠償金の問題を専門家である弁護士に相談したいと考える機会は何度もあると思われます。
では、交通事故の被害にあってしまった場合、弁護士に相談、依頼をするべき最適なタイミングというのはいつなのでしょうか?
ここでは、事故発生から最終解決に至るまでの交通事故損害賠償請求の流れに沿いながら、弁護士に依頼するタイミングについて解説します。
このコラムの目次
1.交通事故の直後
(1) 事故直後の現場検証が重要
交通事故の被害にあった直後は、重大事故の場合、被害者は救急車で病院に搬送され入院が必要となり、ご家族も対応に追われて弁護士に相談、依頼をすることまで気が回らないことと思います。
しかし、事故直後には、後の損害賠償額を大きく左右する重要なポイントがあり、弁護士の活動が大いに役立つのです。
事故の当事者である被害者と加害者のうち、どちらか一方でも救急車で搬送されずにしばらく現場に居残ることが可能であれば、警察は、その当事者の立会いのもとで直ちに現場検証を実施します。あなたが病院に搬送されてしまっていても、残された加害者の言い分に基づいて現場検証が行われるのです。
もちろん、あなたが退院して現場に立ち会うことができるようになれば、警察はあなたの言い分に基づいた現場検証も行います。両者の言い分が食い違えば、両方を記載した調書を作成します。
(2) 入院が長期になる場合の事情聴取
問題は、あなたの怪我がひどく長期間の入院を余儀なくされて、交通事故の現場で立会いながらの現場検証ができない場合です。
この場合、警察はあなたの病室を訪問し、事故現場の図面を見せるなどして、あなたの記憶を喚起させて、あなたの言い分を聞き取り、調書を作成します。
しかし、事故直後から入院をしているあなたが、現場の写真や図面を見せられただけで事情聴取をされても、正確な記憶を蘇らせて、正しい事実を述べることは困難です。記憶が曖昧なままであると、加害者側の言い分に反論ができず、加害者の言い分を追認するだけの調書となってしまう危険性があります。
(3) 弁護士が事実を調査する
もしも、事故直後のタイミングであなたのご家族が弁護士に相談、依頼していれば、弁護士は、警察の事情聴取に先立って現場の状況を確認し、写真や交通状況の動画を撮影し、詳細な図面を作成するなどして、現場の情報を病室のあなたに伝えることができます。
これによって、あなたは事故当時の正確な記憶を呼び起こすことが可能となり、警察が事情聴取に訪れた際も正確な事実を供述することができます。
(4) 調書は過失割合を左右する重要な証拠となる
警察の調書は、加害者の刑事処分を決めるための証拠ですが、損害賠償の問題が民事上の争いとなった時には、その重要な証拠ともなるのです。
ことに事故の態様がどうであったかは、損害賠償額に大きく影響する過失割合の問題に直結します。
(5) 早期の事実調査がのちの賠償問題を有利にする
事故から長い時間が経過してしまえば、現場の状況が変わってしまったり、事故現場の目撃証人を探すことが困難となってしまったりする危険があります。
あなたに過失がないことを証明する証拠を早期に確保しておくためにも、事故から時間をおかずに、弁護士に相談、依頼し、証拠の確保をしておくことが重要といえます。
(6) 早期に弁護士に依頼することで治療に専念できる
しかも、早期に弁護士に任せれば、加害者やその保険会社との交渉、やりとりはすべて弁護士が行ってくれるので、本人は何事にもわずらわされることなく、一番大切な治療に専念できます。
2.保険会社から治療費打ち切りを打診されたタイミング
(1) 加害者の任意保険会社による一括払い
交通事故のケガを治すために通院をしている間の治療費は、多くの場合、加害者が加入している任意保険会社が病院に直接支払ってくれています。これを「一括払い」とか「一括請求」と言います。
本来、治療費は被害者が病院に支払ったうえで、それを加害者の保険会社に請求するという順序が原則です。しかし、それでは被害者に手間がかかるので、保険会社が直接病院に立替払いをしてくれているのです。これは事実上のサービスです。
ところが、通院を何ヶ月か続けていると、保険会社が「このあたりで治療費の支払いを打ち切りたい」と打診してきます。
(2) 治療費打ち切りを打診する理由
保険会社が治療費打ち切りを打診する理由は、営利企業である保険会社が保険料を安く抑えることで支出を減らしたいからです。
通常保険会社は、打撲は1ヶ月、むち打ち症は3ヶ月、骨折は6ヶ月程度で治療費の打ち切りを打診してくると言われています。
また、保険会社が病院の過剰診療を疑っている場合や、被害者が当たり屋、すなわち一種の保険金詐欺ではないかと疑っている場合も、治療費の打ち切りや治療費の支払拒否をしてくるケースがあります。
治療費の打ち切りと言っても、直接の立替払いをしてくれなくなるだけであり、治療自体は被害者の意志で継続することが可能です。
しかし、多くの被害者の方は、治療費の打ち切りを打診されると、もう治療をここで止めざるを得ないのかと心配し、実際に治療を諦めてしまう方も珍しくありません。
(3) 弁護士が治療費支払い継続を求めて保険会社と交渉
治療費の打ち切りを打診されても、諦める必要は全くありません。このタイミングで弁護士に相談、依頼をすれば、納得がいくまで治療が続けられるようにサポートが可能です。
弁護士は被害者と担当医師から詳しい事情を聞いたうえで、治療の状況と今後の治療見通しを保険会社に伝えて交渉し、治療費の打ち切りを撤回するよう要請します。
またこのとき、担当医師に依頼して未だ症状固定に至っていないこと、今後の治療継続による改善の余地があること、今後何ヶ月程度で治癒が見込めるかなどを記載した診断書を作成してもらい、保険会社に提出します。
弁護士のこれら活動によって、保険会社が治療費打ち切りを撤回し、今まで通りに治療を続けることができる可能性があります。
(4) 弁護士が健康保険の利用による自費治療をサポート
保険会社が治療費支払いを継続することに応じない場合は、被害者が自費で治療を続けることになります。
この場合、被害者の健康保険を利用することができます(※)。ところが、病院によっては自由診療から健康保険への切り替えをスムーズに承諾しない場合があります。
※労災保険が適用となる場合は労災保険が優先し、健康保険は使えません。また、無免許運転や酒酔い運転のように故意の犯罪行為によるときも健康保険は使えません。
しかし、心配はいりません。このタイミングで弁護士に相談、依頼していれば、弁護士が被害者と病院の間に立って健康保険への切り替え手続きをサポートすることが可能です。また、健康保険組合などへの「第三者行為による傷病届」(※)の提出もお手伝いもできます。
※「第三者行為による傷病届」は、保険者(市町村、健康保険組合など)が加害者に求償するために必要な書類であり、交通事故で健康保険を利用する場合に提出が必要なものです。
(5) 弁護士が自賠責保険仮渡金の申請をサポート
さらに、自費診療の費用に充てるため、自賠責保険に対して仮渡金の請求を行うことが可能であり、そのサポートも弁護士が行うことができます。
傷害の場合は、その内容に応じて5万円から40万円までの範囲で支払いを受けることができます。
3.後遺障害等級の認定を申請するタイミング
(1) 事前認定と被害者請求
治療によっても、もはや改善が見込めない症状、すなわち後遺障害が残ってしまった場合は、自賠責保険(損害保険料率算出機構)に対して、後遺障害等級認定の申請を行うことになります。
これには、次の2種類の方法があります。
- 事前認定…加害者側の保険会社が申請手続を行う
- 被害者請求…被害者本人が申請手続を行う
(2) 被害者請求で高い後遺障害等級認定の獲得をサポート
事前認定では、被害者本人の同意を得て、保険会社が本人に代わって病院から医療記録等を取り寄せて等級認定を申請します。保険会社へのお任せですので、被害者には手間がかかりません。
しかし、保険会社は一方当事者です。被害者により高い等級が認定されるように工夫や努力をすることはありません。
このタイミングで弁護士に相談、依頼をされれば、弁護士が医療記録等を詳細に検討します。内容に間違いや不足がないかどうかをチェツクし、医師に書き直しや訂正をしてもらうこともあります。必要であれば再検査の実施も要請します。
こうして弁護士が十分な準備をしたうえで等級認定の申請(被害者請求)を行うので、正確な、より高い等級認定を受けられる可能性が高いのです。
4.後遺障害等級認定に不服があるタイミング
(1) 低い等級認定を放置すると賠償額に影響
自賠責保険(損害保険料率算出機構)から示された後遺障害等級認定の結果が、予想よりも低い等級であったときや、最低の14級すら認定してもらえなかったときは、そのままあきらめてしまうと、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益という損害賠償のうち大きな部分を占める賠償額に影響し、不当に低い賠償しか受けられなくなる危険があります。
(2) 弁護士による異議申立、紛争処理申請で等級認定を是正
このタイミングで弁護士に相談、依頼されれば、弁護士は正しい等級認定を求めて不服申立を行うことができます。
不服申立の手段には、次の3種類があります。
- 損害保険料率算出機構に対する異議申立
- 自賠責保険共済紛争処理機構に対する紛争処理申請
- 裁判所での訴訟
異議申立は、損害保険料率算出機構に対して再審査を要求するものです。
自賠責保険共済紛争処理機構は、裁判外の紛争処理機関で、学者、弁護士、医師などからなる審査会です。
これらはいずれも書面審査ですので、弁護士は等級認定の通知書と認定に用いられた資料をつきあわせて、低い等級となった理由を探ります。
後遺障害診断書の記載内容などに間違いや不足があれば医師に訂正してもらうなどし、必要な資料を追加して提出します。
5.示談金の提示を受けたタイミング
(1) 交通事故の損害賠償額には3つの基準がある
後遺障害等級が認定されると、保険会社から最終的な損害賠償額を決めるための示談金額の提案があります。
ここで注意が必要なことは、交通事故の損賠賠償金額を決める基準には、①自賠責基準、②保険会社基準、③弁護士基準(裁判所基準)という3種類の基準があるという点です。もっとも高額なのは、弁護士基準(裁判所基準)です。
自賠責保険は、最低保障である強制保険から支出される金額を定めるものに過ぎず、当然に低額です。
保険会社が提示してくる示談金を算定する基準が保険会社基準です。これは保険会社の内部基準に過ぎません。裁判で通用している基準よりも低く設定されており、示談交渉では小出しに増額をして提案してきます。
弁護士基準(裁判基準)は、裁判例などを弁護士団体がまとめたもので(※)、裁判の実務でも用いられる基準です。
※実務上の標準として用いられている刊行物に、通称「赤い本」と呼ばれる「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部発行)があります。
(2) 弁護士基準で示談交渉することで高額の賠償金を獲得
保険会社が示談金を提示してきたタイミングで弁護士に相談、依頼すれば、弁護士は高額な弁護士基準で交渉を行います。
保険会社側としても弁護士の登場により訴訟にまで至れば弁護士基準が適用されることは理解していますので、弁護士との交渉にあたっては弁護士基準に配慮せざるを得ません。
このため、保険会社の提示する示談金よりも高額の賠償金を受け取ることが可能となります。
6.訴訟を提起するタイミング
保険会社との示談交渉が決裂し、訴訟によるしかない場合は、当然に弁護士に相談、依頼することになります。
日本では、弁護士をつけずに本人だけで民事訴訟を行うこと(本人訴訟)も許されていますが、交通事故による損害賠償請求は本格的な裁判であり、弁護士を依頼しないで行うことは現実的な選択ではありません。
7.弁護士特約のメリット
弁護士に相談、依頼する場合に多くの被害者の方が心配されることは、弁護士費用の負担が大変なのではないかという点です。
あなたが加入している自動車保険に弁護士費用特約がついていれば、それを利用して弁護士に相談、依頼することが可能です。
弁護士費用特約は、あなたやご家族が交通事故の被害者となったときなどに、相談、依頼した弁護士の費用を保険会社が負担してくれる保険特約です。
弁護士費用特約では、弁護士への法律相談料について原則10万円まで、その他の弁護士費用と実費についても原則300万円まで保険会社が負担してくれます(保険会社によって上限金額は異なります)。
これらの金額は、ほとんどの交通事故事件において十分に相談料と当初の弁護士費用(着手金)をカバーできますので、経済的な心配をせずに弁護士に相談、依頼をすることができます。
ご自分の自動車保険に弁護士費用特約がついていることをご存知ない方も多いので、是非一度、保険証券を見直して見てください。わからない場合は、保険会社に問い合わせることもできます。
もしも弁護士費用特約に加入されているなら、それを利用しない手はありません。出来るだけ早く、特約を使用して弁護士に相談、依頼するべきです。
8.交通事故の示談交渉で困ったら弁護士に相談を
以上、交通事故で弁護士に相談、依頼する最適なタイミングについて説明しました。
もっとも良いのは、事故直後から弁護士に依頼して、すべて任せてしまうことです。費用は弁護士費用特約を利用することでまかなえます。
泉総合法律事務所の弁護士は、どのタイミングでご相談頂いても、事故解決まで専門家が親身になってサポート致します。どうぞ安心して、ケガを治すことに専念してください。
初回の相談は1時間無料となっておりますので、弁護士費用特約に加入されていない方も安心して弁護士にご相談ください。
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