会社法人の銀行口座が凍結された場合、いつ解除されるのか?
銀行取引や犯罪がらみのトラブルがあると、法人でも銀行口座が凍結されることがあります。
法人の口座が凍結されると、口座に関係した取引ができなくなるので、会社存続が危ぶまれる事態に陥ります。
そのため、法人の場合は特に注意しなければなりませんが、一体どのようなときに口座が凍結されるのでしょうか?
ここでは、法人の口座が凍結される主な原因と、凍結後の対処法について詳しく解説します。
このコラムの目次
1.法人口座が凍結される場合
銀行口座にお金を預けると、好きな時に引き出すことができます。
しかし、口座が凍結されるとお金を引き出すことができなくなります。公共料金や携帯電話料金、税金の引き落としなどもできません。
口座凍結でよくあるのは個人の死亡時で、相続における財産保全の目的で口座がロックされます。
しかし、法人の場合は破産しない限り消滅することはありません。また、代表取締役が死亡しても法人がなくなることはないので、口座凍結に至る原因は個人と異なる部分があります。
法人口座が凍結される場合は以下の4つのケースです。
(1) 債務整理の開始
※弁護士の受任通知が銀行に送付されると口座凍結
借金問題を法律的に解決することを債務整理と言います。法人の債務整理には任意整理、民事再生、自己破産があり、借金を返済できない場合は、負債額や資金繰りなどから判断していずれかの方法で借金を整理します。
法人が債務整理をするときは弁護士に依頼をすることになるでしょう。法人の債務整理は手続きが複雑なため、成功させるには専門家の協力は不可欠です。
債務整理を弁護士に依頼をすると、債権者あてに受任通知が送られ、以後基本的に取り立てはなくなり、実質的に返済をストップすることも可能です。
しかし、銀行から借り入れがある場合は、受任通知が銀行に送られると口座は凍結され、負債と預金が相殺されます。
期限の利益を喪失していない場合でも口座凍結は可能なので、銀行の判断だけで実行できてしまうのです。
預金を債権の一部に充当できるのは受任通知が送られたときだけで、以後の入金については相殺することはできませんが、口座凍結が解除されるまでは預金の引き出し・口座引き落としもできなくなります。
法人の場合は債務整理後も売掛金の回収などで入金される可能性があり、それで債務整理の手続費用や弁護士費用を工面したいとお考えの方もいることでしょう。しかし、口座凍結されるとそれもできなくなります。
よって、法人破産の場合は特に受任通知の送付のタイミングについて慎重になる必要があり、口座凍結についても事前に対策をとっておかなければなりません。
債務整理の前には、預金の引き出しや引き落とし口座の変更など、弁護士からアドバイスがあると思いますので、指示通りに行動するとよいでしょう。
法人破産では、手続きを有利に進めるためにも対策期間を十分に取る必要があるので、債務超過や支払不能に陥る可能性がある場合は、できるだけ早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
(2) 公租公課の滞納処分
公租公課とは税金、社会保険料、年金等のことですが、経営状態が悪化した法人では、こうした支払いを滞納していることが多々あります。
しかし、公租公課は「非免責債権」であり、経営が苦しくても、債務整理をしても免除はされません。
どうしても支払えない場合は、税務署や市役所に相談をして、必要であると認められた場合は支払猶予や分納の措置を受けることもできますが、滞納を放置していると早い段階で口座が差し押さえられるので注意が必要です。
口座差し押さえが実行されると、その口座のある銀行から借り入れがある場合は、銀行が債権を回収するために口座を凍結します。
(3) 経営者や家族が連帯保証人の場合は要注意
中小企業の場合、会社に融資をするときに、経営者本人や家族が連帯保証人になっていることがあります。その場合、税金等の未払いを放置すると、法人の口座が凍結される恐れがあります。
連帯保証人である経営者や家族に公租公課の未納があると、その本人の口座が差し押さえを受けます。連帯保証人の口座差し押さえで銀行口座が凍結される理由は、融資に際し「連帯保証人の口座が差し押さえを受けた場合は、法人の融資は一括返済をする」という契約になっていることが多いためです。
会社経営の金策について奔走していたら、自身の支払いを忘れていた…ということはありえることで、うっかり支払いをしなかったばかりに法人口座が凍結されることもありますので、十分注意して下さい。
(4) 銀行取引停止処分
約束手形の不渡りを半年間に2回だすと、銀行取引停止処分になります。
約束手形は有価証券の一種で決められた期日に所定の金額の支払いを約束するもので、支払ができないときは不渡りとなり、一度でも不渡りがあると企業の信用を大きく低下させることはご存知だと思います。銀行取引停止処分以降は2年間融資を受けることも、当座取引をすることもできません。
しかし、銀行取引停止になるのは当座預金のみで、基本的に普通預金口座については使用することができます。しかし、銀行から融資を受けている場合は、銀行の判断により普通預金口座も凍結される可能性があります。
2度の不渡りがあると、手形が使えなくなり、融資を受けることもできなくなり、銀行から借入がある場合は普通預金口座も凍結されるので、資金繰りができなくなり事業継続ができなくなるので事実上の倒産となるでしょう。
(5) 犯罪利用が疑われた場合
銀行口座を犯罪に利用された場合は、警察や弁護士、金融庁、消費者センター等の通報により口座凍結されます。
借金返済トラブルによる口座凍結は債権回収を目的に行われますが、犯罪利用が疑われる場合の口座凍結は、被害拡大防止と被害者救済が目的です。
犯罪利用が疑われるのは以下のケースです。
- 不正請求・架空請求
- オレオレ詐欺
- 闇金業者による不正返金請求
- 本人確認書類の悪用による口座作成
上記の犯罪の疑いがある場合は、口座名義人に連絡が入り、口座開設に見覚えがない、売却した、貸与したなどの回答があった場合や、本人に連絡がつかない場合は口座凍結の措置がとられます。
本人確認書類の悪用は、運転免許証や健康保険証を紛失したとき、その身分証が悪用され犯罪用の口座が作られてしまうことがあるので要注意です。
口座凍結までの流れは、口座が悪用されていると金融機関が判断した場合、その事実を預金保険機構に報告し、同機構のホームページに60日間その口座情報を掲載します。その間に異議申し立てがなければ口座の権利は失われます。
その際に口座の残高が1,000円以上あるときは被害者の申請により本人に返還されます。被害者の申請がない場合や、残高が1,000円未満のときは預金保険機構に納付されて、犯罪被害者の支援などに使われます。
法人の場合は資金繰りが悪化したときに、闇金に手を出し、借金の条件として口座提供を求められることがあります。安易にのってしまうと、その口座は犯罪に使われ、特に法人口座の場合はマネーロンダリングに利用される恐れがあります。
2.口座凍結されるとどうなるか
法人口座が凍結されると、会社経営に大打撃を与えます。最悪の場合はそのまま倒産してしまうケースもあり得ます。
(1) その口座のあらゆる取引ができなくなる
口座凍結をされると、当該口座からお金を引き出せなくなるだけでなく、公共料金や税金の引き落とし、取引先への振り込みなど口座に関する全ての取引ができなくなります。
(2) 同銀行他口座も全て凍結される
銀行口座が1つ凍結されると、同じ銀行の他口座も全て凍結されます。
例えば、みずほ銀行のA支店とB支店に同一名義で口座を持っている人の場合、名寄せされてA支店とB支店の両方の口座が凍結されることになります。
その銀行口座での取引が大きい場合、経営は大打撃を受ける恐れがあります。
(3) 犯罪関与の場合は他行の口座も凍結される可能性あり
犯罪に関与していることが疑われる場合は、同じ名義人の他の銀行の口座も凍結される恐れがあります。
例えば、A社の名義でみずほ銀行と三井住友銀行に口座を持っていて、みずほ銀行の口座で犯罪利用が疑われる場合、みずほ銀行だけでなく、三井住友銀行の口座も凍結される可能性があるのです。
なぜ犯罪とは無関係の銀行口座まで凍結されるのかというと、それは、口座が犯罪利用された場合、金融機関は預金保険機構に広告を依頼するので、その事実が他の銀行に知られるためです。
法人で全ての口座が凍結されたら経営ができなくなるので、会社は存続の危機に陥ることは必至です。
(4) 新たに口座を開設できなくなる可能性あり
犯罪利用で口座が凍結された場合、新規で口座を作成しようとしても断られる可能性が高いでしょう。
法人でどの銀行口座も利用できないとなると、会社経営を続けることはまず無理です。
3.口座凍結された場合の対処法
最後に、口座が凍結された場合の対処法について解説します。
(1) 債務整理による口座凍結の対処法
債務整理で銀行口座が凍結された場合は、保証会社による代位弁済が終わったときに凍結解除されます。口座凍結から解除まではおよそ2ヶ月程度で、解除されたあとは再び口座利用ができるようになりますが、負債が消える訳ではないので、その後は保証会社に返済をしていきます。
保証会社の代位弁済によって凍結解除となるのは、債権者が銀行から保証会社に代わることで、債権保全のための口座凍結の措置が必要なくなるからです。しかし、保証会社からの代位弁済をもってしても銀行の負債を返済できない場合は、引き続き口座は凍結されます。
例えば、信用保証協会の部分保証を利用しているケースは、代位弁済でも銀行の負債を完済することはできないので、口座凍結は継続されるでしょう。
(2) 犯罪関与が理由の口座凍結の対処法
犯罪に関与している口座については、犯罪に加担しているか、そうでないかでも扱いが異なります。
口座が犯罪に加担している場合は、警察の要請により口座が永久に凍結されます。また、2008年以降、振り込め詐欺救済法が成立したことを受けて、不正に譲渡された口座や、身分証を偽造して作った口座については、残高の権利が失われることになっています。
口座を犯罪利用された場合は、預金保険機構のホームページに「権利消滅の広告」が掲載されてから60日以内に同機構に対して「権利行使の届出」を行わなければなりません。申立が認められれば口座の失権を回避することができます。
ただし、口座の失権を回避しても直ちに凍結解除となるかどうかはケースバイケースです。凍結解除は警察と銀行の判断によって行われるので、口座が使えるようになるまでに時間を要することもあります。
(3) 民事訴訟で解決することもある
口座凍結解除を巡っては、民事訴訟に発展することもあります。
特に犯罪利用が疑われる場合は、銀行も判断に時間がかかり、協議がまとまらず長期化することもあります。このような場合、司法判断によって解除してもらうケースもあります。
4.まとめ
法人の銀行口座が凍結されると、経営は大打撃を受けます。口座の凍結は銀行の判断によって行われるので、もし口座からお金が引き出せなくなっていたら、その口座は凍結されている可能性が高いでしょう。
口座凍結に至る主な理由は、債務整理による信用不安、公租公課の滞納、口座の犯罪利用などです。思い当たる節がある場合はできるだけ早く専門家に相談をして下さい。
早めに対処をすれば、口座凍結を未然に防ぐこともでき、仮に凍結されても弁護士が交渉にでることで凍結解除される可能性があります。
対処が遅れるほど会社への影響が大きくなり、倒産に至ることもあります。
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